エルちゃんのクリスマス 第7話

「ようこそ時間の国へ。」
狸、いや間違えたカエルが、そう話しかける。しかも、ゴツゴツとした大きな体からは想像できないような、透き透った声で。
「き、君は誰だい?」
「私はタイムマスター、サー・カエル。人の一生の時間を管理している天の番人です。」
「その天の番人が僕に何の用だい?」
「タローさん、この世界で少し私と一緒に時間の旅をしてみませんか。それとも、いますぐ、さぁ、かえる」
頬から嫌な汗がでた。
大体、こんなつならない駄洒落を言う天の番人など聞いたことがない。僕はきっと夢の中でからかわれているだけだ。そう思うと段々腹がたってきて、強い調子でこう言った。
「サー・カエル。君のことはわかったよ。でもね。僕はいろいろと忙しいのだよ。君と遊んでいる時間はない。今すぐ元の世界に戻してくれ。」
そういうと、カエルは困ったようにこう答えた。
「そんなこと言わずにタローさん。この時間はあなたにとって貴重な時間。絶対損になりませんから。」
何かお願いするような丁重な言葉。天の番人というからどこか威圧的な態度をとるのかと思っていたから意外だった。もしかしたら天の国ではみんなどこかで迎える人のために接客態度を習うのかもしれない。
そんなヘンな考えが頭の中をよぎっているうちに、あの綺麗な声がまた聞こえきた。今度は少し低い調子で・・
「それにね。ここに来たからには元の世界には簡単に戻れませんよ。天使エルから聞きませんでしたか。ここは現実の世界でも夢の世界でもない・・」
あきらめて、僕はこう答えた。
「わかったよ。サー・カエル。ところで、君はなぜ僕の名前を知っているのかい。」
「私はタイムマスター。あなたの生まれてから今までの時間はすべて私のこの腹の中にあります。だから私はあなたのすべてを知っている。どうしてあなたがタローという名前をつけられたかも。」
そういって、彼は太鼓のような白い大きなお腹を指差した。(つづく)