エルちゃんのクリスマス 第6話

そのガラス細工にみえる花びらは生け花で使う剣山のように尖っていて、痛々しい。果たして本当にガラスなのだろうか。
なんでも「時間の花」というらしい。
トゲトゲしくてとても手に持つ気にはなれなかったのに、いつの間にかエルの手から僕の手のひらに移っている。
水をすくうようにそっと広げた手のひらで、まじまじとその花をみた。
人肌に触れたせいだろうか。花びらは少しずつ溶けだして、花先から青白い煙がでてきている。
なんだろうと思っているうちに、その煙はあっという間に僕の視界を遮り、また意識がもうろうとしきた。
このまま気を失ってしまいそうになる中で、エルの声が聞こえてきた。
「さあ、いってらっしゃい。時間の国へ。そして見てくるのよ」
「おい、待てよ。エル。どこに行くのだい。そもそもここはどこなのさ。僕はまだ夢の中にいるのかい?」
僕はいいようのない頭痛がするクラクラした頭で精一杯の質問をしてみた。
「ここはあなたの夢の中ではないわ。でも現実の世界でもない。そう、ここは現実と夢が交差する時間の世界・・・あなたはここに足を踏み入れてしまったの。いまは戻ることはできないのよ。」
「なぁ。エル。言っている意味がわからないよ。僕にわかるようにきちんと説明してくれよ。」
今度は少し強い調子で聞いてみた。
「時間の国はあなた自身・・・・自分自身とよく向き合ってみるのね。」
エルの答えは僕にはいっこうに、的をえなかった。

「待てよ。エル。君はついていってくれるのじゃないのかい。僕はどうすればいいのさ。」
「それはあなた自身の問題。ワタシにはわからないわ・・・・・。」


「そろそろ時間よ。じゃあ気をつけていってらっしゃい。」
段々エルの声が遠ざかっていく。
僕は天使の姿さえ見失い、青白い煙の中で何も見えなくなった。




どのくらい時間がたったことだろう。
気がつくと、突然、目の前に狸ほどの大きさの眼鏡をかけたカエルがいた。
(つづく)