私小説 ベラミ第1話

sakurasaku20052007-01-16


僕は、空を見上げた。
凍えるような冷気の中を月が黄色く光っている。
真夜中の街はとても静かだ。街も眠りにつくのだろうか。
月も眠る夜、僕は一人夜道を歩いていた。(写真はゆんフリー素材集様から夜の噴水)
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その日は、たまたまいくつか仕事が重なった。気がつくと午前零時を回り、フロアには一人しか残っていない。頭が少しぐるぐる回る。「いかん、いかん」
誰に向かってでもなく、そういって、胸ポケットに手をやった。そうだ、煙草はやめたんだ。
そう思い直し、ふぅ〜、深く息をつく。ビルのガラス越しから見る夜空は、砂浜に散らばった貝殻のように、白くキラキラと輝いていた。終わらない仕事は諦め、ビルを後にした。


帰り道は少し早道をしよう。
そう思っていつも通らない公園の中を横切ろうとしたとき、その看板は目に入った。
薄橙色のネオンに小さく「barベラミ」と書かれている。
まるでいったん目を離すとたちまち忘れられてしまいそうにその看板はひっそりと立っている。

なぜそのとき自分がそうしたのかはわからない。気がつくと、私はバーの中に入っていた。
店内はジャズが静かに流れている。とても落ち着く雰囲気だ。カウンターの中では、初老の主人がカクテルシェーカーを黙々とふっている。誰のためのカクテルなのだろうか。
客は私一人しかいない。
サーモンピンクのセーターに無地のシャツ。白髪の天然パーマの主人は、一見「悪」にも見えるが、その目がくりっとしていて魔術師のウィローのように可愛い。
雑然としながらも清潔感がある店内、主人のてきぱきした動きがこの店の酒が美味しいことを物語っている。カウンターにある木の椅子に座り、コートを脱いで一息ついた。
主人が水は出しながら、一言「寒いですね」と微笑みかけてくる。
外では、月は凍っていた。
(つづく)

終わりに

昨日紹介した短編小説。誰かのためでなく自分のために書く物語は初めての試みなので、まだ私も試行錯誤の中にいる。この物語は不定期ながら月に1回ぐらいのペースで更新していきたい。時間のある方は一言コメント貰えれば嬉しい♪。