さだまさしさんの解夏

僕はこの本を読むまで「解夏」とは随分厚い長編小説だなぁと思っていた。
読んでみて驚いた。解夏は110頁ほどしかなく、ほか4編の短編集が散りばめられている。勿論、一番印象に残ったのはやはり表題作「解夏」、それと個人的には最後のサクラサクがよかった。

解夏 (幻冬舎文庫)

解夏 (幻冬舎文庫)

失明への恐怖は失明とともに去る。
ベーチェット病という難病に冒されて両目を失うという運命を背負った主人公(隆之)とそれを受け入れまじかで支える恋人陽子さんの物語。
長崎の坂と抒情的な光景がとても印象に残る作品だ。
解夏禅宗用語で修行僧が“雨安居(うあんご)”と呼ばれる夏の90日間の修行を終えた日を言うらしい。お寺で和尚さんと二人の会話は秀逸だ。
作品のあちこちに「一切空」などの仏教的思想も散りばめられている。
病気に対する恐怖、不安、葛藤、苦悶、隆之君のストレートな感情表現に、読後に優しい静かな感動で包んでくれる。実は僕的にはちょっと凹んだが、さだまさしさんらしいとても美しい爽やかな物語だった。