私小説 幸福の王子 第2話

和洋折衷、不思議な感じの店だ。
大きな木を半分に切ってピカピカのワックスをかけたような細長いカウンター。後ろの棚にはウイスキー、ブランデー、ラム、日本酒、焼酎、たくさんの種類の酒が置いてある。
隣の棚にはレコードやCDがきちんと整理されている。
静かに流れるジャズ、反対側の壁には大きな古時計。古くて新しい。そんな感じの店内。この店の中だけ、時間が止まっているようだ。
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「お客さん、何にします。」
主人が微笑みながら、低い小さな声で言う。先ほどまでふっていたシェーカーはどこかにしまわれ、今はキュッキュとコップを拭いている。
ゴッドファーザーを。」そういって、カウンターに肘をつき、少し肩を落とした。
「いけませんね。お客さん。いきなりそんな強いお酒を飲んじゃ。体に毒ですよ。チェイサーご用意いたしますか。」
「なんか今日は一気に酔いたい気分なのですよ。」
「いけませんよ。そんなに急いだら。時間というのはもっとゆっくり楽しむものです。」
主人はそう言って棚から酒を取り出した。
「マスターは、お医者さんと同じことを言うのですね。」
そう言って僕は、少し目をそらした。
そして、思い出したかのように、ポケットから筒型のケースを取り出す。
薬の時間だ。
僕はいつもその薬を手のひらにのせて飲む。なぜそうするのかはわからないけれど、子供の頃からのクセでいつもそうしてしまう。手のひらにのった薄茶色の粉は、砂のようにさらさらで、銀粉のように輝いて見えた。薬を口に入れ、水を一杯飲む。
カウンターに肘をついたまま、うつろな表情で宙を見ていると、「何かいやなことでもありましたか。」そう言って主人がグラスを目の前に置いた。
「生きていれば、いろいろとね。いいときもあれば、悪いときもありますよ。今はちょっと悪いときですかね。」
主人はコップを拭きながら黙って聞いている。僕は水割を片手に持ち、一口喉に含んだ。
さすがに強い。喉元で燃え上がり、燃え盛る火の粉が空に吸い込まれるように、その液体はゆっくりと静かに胃の中に沈んでいった。
「『不安』僕はいつもコイツと戦っているんですよ。」なぜだろう。そんな言葉が突然口から出た。主人は黙って下を向いてコップを拭いている。しばし、時間が流れる


突然、何かを思い出したかのように、主人はコップを拭く手を止め、こう切り出した。
「お客さん、世界一幸せで不幸な王子の話って知っています。」
世界一幸せで不幸な王子のはなし?
大きな古時計と僕だけがその場に佇んでいた。
(つづく)

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