本多信一の幸福に生きた「内気なネコ」の話

私は今まで生きた中で二人の人物を敬愛している。
一人は相田みつを。もう一人が本多信一である。
この二人の共有点はたくさんあるが、一番の共有点は弱い自分を認め、正直にさらけだしている点である。
ママの後姿を覚えているんだ。
「行かないで」とつぶやいた。でも、それきりだった。
僕は生まれたばかりで歩けなかった。
こう始まる本作品は本多信一が書いたはじめて、そして最後の童話である。
ノラ猫の視線で生きるヒントを語っている。私の好きな本多さんの作品の中で一、二を争う印象に残る作品である。
ボクはボクだった。
長いみちを歩いて、ボクは自分に戻ってきた。
仏様の悟りは一生かけてもわからないけれど、自分が自分で入れる場所は探せば手に入る。そう語る本多先生の声が聞こえてきそうな作品である。