小川洋子の博士の愛した数式

博士を愛した数式*1を読んだ。
僕の記憶は80分しか持たない。
揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞受賞し、「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞された小川洋子さんの描く数学の世界はとても美しく、そして優しい。
「24、4の階乗だ。実に潔い数字だ。」
「君はルートだよ。どんな数字も嫌がらずに自分の中にかくまってやる、実に寛大な数字だ。」
友愛数だ。滅多に存在しない組合せだよ。神の計らいを受けた絆で結ばれた数字なんだ、美しいと思わないかい。」
博士が私やルートに話す、数字についてのひとつひとつの言葉が数学の楽しさ、美しさ、偉大さを感じさせてくれる。
博士の人柄を愛していくうちに自然と数式を愛してしまう。そんな作品である。
途中にエピソードとして加わる阪神タイガースの話が良いスパイスとなって、この物語を身近に、そして深く心に染み込ませていく。
モデルとなった数学者藤原正彦さんがおっしゃったように小川洋子さんの巧みな表現が文学と数学を結婚させた、まさに数学への憧憬、数学美への心酔が散りばめられた作品である。

*1:現在松竹東宝系で公開中の映画も好評。信州と静岡を舞台に博士を寺尾聡、家政婦を深津絵里、大人になったルートを吉岡秀隆、ルートを斎藤隆成が見事に演じている