ライブドアショックから西暦2007年問題を考える

2007年問題のすべてがわかる 3分図解昨日、夕刊から株価が消えた。
ライブドアショックによる株の大量取引により東京証券取引所は昨日午後2時40分、全銘柄の取引を停止した。
売買注文が殺到して約定件数が400万を超え、システムの処理能力を超える可能性があるためだという。
ライブドアが損益を粉飾したのも問題だが、日本の株式売買の生命線ともいえる東京証券取引所が自ら取引停止しなくてはならないシステムを持っていることはもっと問題だ。
この背景には肥大化するシステムを支える技術者が減ってきている、いわゆる西暦2007年問題がある。
かつて10年以上システムを携わった人間(ここ何年か違う仕事をして戻ってきたばかりだが)として、この2007年問題を考えてみた。

まず最初に2007年問題とは何なのか。

2007年問題とは長年、企業において大型汎用機*1などの基幹系システムを開発・保守してきたベテランが引退してしまい、今まで培ってきた技術やノウハウなどが継承されず、基幹系システムの維持が困難になる現象を指す。
大工に例えると、古い工法で家の建て方を良く知っている親方が引退してしまうと、残った若い衆では、残された古い家の修理もできなくなってしまう

現象である。
これはシステムに限らずモノづくりや行政サービスにもいえる問題である。
2007年は戦後、私たちの経済を支えてきてくれた団塊の世代で一番数が多い昭和22年(1947)〜24年生まれの方が60歳で定年を迎えはじめる年である。
システムに限らず消費、生活のスタイルが大きな変化が起きると予想されている。

では西暦2007年問題が起こるとどうなるのか。

インターネットを使ったウェブシステムが全盛といっても、東京証券取引所をはじめ、証券や金融機関では大型汎用機を使ったシステムが数多く存在する。
また、逆に中小企業ではオフコンと呼ばれる古いシステムを使ったしくみを使っているところがたくさんある。
こうした企業にとって、築き上げたシステムがブラックボックスになり、そのシステムを修正したり、運用や保守が出来にくくなってしまう。
具体的には、システムが原因で、株の取引が出来なくなったり、お金が引き出せなくなったり、生命保険の契約者に保険金が支払われなくなったりする問題が起こってくる


「やれ、水だ、食料品を備蓄しろ」といった西暦2000年問題よりも
ずーと深刻な問題である。

では、なぜ2007年問題は起こったのか

その背景にはシステムのノウハウが継承されなかった人的原因がある。
そのひとつがシステム分野の人の専門性である。
私たちの業界は簡単にいうと職人カタギの人が多い。
私は違う?がSEと呼ばれるシステムの技術者は、大工の棟梁同様、職人カタギの人が多く自分の世界に入り込むいわゆる自己陶酔型が多い。
故に人に技術を教えたがらない。
技術は人から盗むものである。
私はかつての上司H課長からこう教わった。
とくに金融機関などでは、システム畑から離れることを嫌い、ノウハウを独占することで、自分が異動させられないよう仕事に聖域を設けた人も多いと聞く。
私もそうしていれば違う分野の仕事に行かなくても済んだのだろうか。
しかし、そのことがノウハウ継承の妨げになっている。
ふたつめにはやはり不景気によるリストラがあげられる。
システム業界は90年代初頭からダウンサイジングといって、大型の汎用マシンからパソコンなどの小型のマシンへと小型化が進んできた。
それと、不景気が重なり、汎用機を主体としていたSEが数多くリストラされた。
全体的に大型汎用機がわかる人が減っていることも原因にあげられる。
現に昨年11月の東証システムのダウンで大きくイメージを落とした富士通は秋草直之社長の号令のもと、この「ダウンサイジング」を社を挙げて取り組み、同時に全世界で2万人以上のSEのリストラを行ってきた。
そのツケが今になって出てきている。
最後にあげるのが若手職員の意識である。
どこの世界もそうだが若い者は新しいものに憧れる。
時代はIT時代と呼ばれ、若い人たちも大型汎用機向けのコボルやフォートランといった訳のわからない言語を学ぶより、今流行りのウェブシステムやサーバ&クライアントシステムといった新しい技術を学びたい。
企業はリストラで人員が減り、教育に時間もお金もかけられないから、古いシステムはベテランに、新しいシステムは若手にと自然にすみ分けが進んでしまった。
こうしたことが2007年問題の背景にある。

では、2007年問題の対策はどうすればよいのだろうか。

技術の伝承の問題は一朝一夕にできる問題ではない。
システム技術者の定年延長や嘱託制度による再雇用によりノウハウを持った人材を確保することがまず考えれる。
それと同時に若手技術者へのノウハウ伝承のためのマニュアル化。
そしてシステム再構築に向けた企業の投資が必要になってくる。

伊勢神宮だって20年に1度は宮大工の技術継承のために建て替えを行う。
システムは今、技術伝承のための建替えの時期を迎えたのではないだろうか。
いかにして日本の経済の力を落さずに、次世代にうまくバトンタッチしていくのか。また引退した人たちにとっても生活に幅広い魅力と心の豊かさを創造できる社会を作ることができるのか。
今、企業と行政の創意工夫が問われている。

*1:これをホストコンピュータとかメインフレームと呼ぶ